寂しがり

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待っていてくれた話

支部に同じ文章を載せてます。不思議な夢を見ました。2018.04.12


夢を見た。

救命センターのような場所、おそらく病院の中。
彼がいる。私の恋人であり医者である男だ。
働いている彼を眺めている。手を振ったり話しかけたりしても、気付かない。

場面転換。
私は街中を歩いている。ここは私の母校の裏手だ(以前別の夢の中でも出てきた、架空の土地だ、と私は理解した)。某医大の分院が存在し、さらにそこから大学に向かって歩いて行くとレトロでかわいらしい、ウッドテラスのあるレストランが出てくる。壁はピンク色をしていていろいろな植物が植えてある。外看板にはオムライスか何かの絵が描いてある。分院やレストランの、道を挟んで反対側は、よく見えないが林のようになっている。
私はそこを歩いている。誰かと一緒に。彼ではない誰か、男の人のような気がする。ぶらぶら歩いていると道行く人とすれ違うが、特に知り合いはいない。

再び病院。
彼はカンファレンスのようなものに出席している。彼や、他のスタッフの視線に入り込んでみるけれど、誰も私に気がつかない。そもそも私を透かして向こうを見ている。当然だろう。私は本当に今ここにいるわけじゃない。目が覚めない私の、魂というか、幽霊というか、そんな感じのものがここにいるだけなのだから。
彼が何か話している。私のことかもしれない。看護師らしき女性が二人ほど話しかけている。ちょっと嫉妬した。けど彼は浮気とかしないひとだって知ってる。
私はだんだん大きくなっていく。違う。どんどん浮き上がっているんだ。視界が下に遠のいていき、いろんなものを見下ろす形になる。ああ、私やっぱり死ぬのかしら、なんて考えた。

場面転換。
私は夜のビルの屋上のような場所にいる。大学の知り合いが数人、どうやら彼女らには私の声が伝わるらしい。
「見て、空も飛べるんだよ」
ビルの手すりの上にふわり、ふわりと漂うように飛んでみせる。つま先が手すりの上を滑る。彼女たちがどんな反応をしたのか、わからないまますぐに視界が切り替わる。

場面転換。
今度はどこかわからない場所を歩いている。あの架空の場所を歩いていたのと、おそらく同じ人と一緒だ。恋人である彼ではない。同世代くらいの小柄な男性。この人は誰だろう。
井戸のようなところでその人と二人して前髪を下ろし、「貞子〜」なんて言ってふざけあうけど、死にかけて霊体になっている今、わりと冗談じゃないんじゃないだろうか。楽しかったから良いけど。
石畳の道を歩いている。視覚的な情報より、触覚の情報でそう認識した気がするから、裸足で歩いていたのかもしれない。
いつの間にか、日本家屋にたどり着く。玄関をくぐり、最初の一間で、私は自分がナイフを持っていることに気づく。一緒に歩いてきた男も、何かの刃物を持っている。唐突に怖くなり、刺されてしまうのだろうか? と不安に思うと、男は振り返り、私からナイフを取り上げる。私の持っていたナイフは根元からぐにゃりと折れ曲がっており、こんなナイフじゃ身を守るにも役に立たないなと思った。2本のナイフと、白い皿のようなもの。それらを持って、男はさらに部屋を進んだ。
先にあったのは畳敷きの8畳ほどの部屋だ。畳は古いらしく白茶けていたが、部屋は全体的に清潔で、その隅に布団が敷かれている。すぐ脇に文机のようなものがあり、男はその前に、私は布団の上に座る。他愛ない会話。談笑もこぼれる。ここが「自分の部屋」のような、今の私の、拠点のような場所に思える。
「ねえ」男は気さくな様子で手帳を取り出した。私も似たようなものを持っている。ここに来てしまってから、1週間経つごとにチェックをつけていた。それを見せて男は言う。
「君がここへ来て、もう8週間だね。現実では、10倍の時間が経ってるけど」
「え?」

ああ、この日本家屋は三途の川の手前だったんだな、とぼんやり思う。実際に川が流れていたわけではない。けれど、ここは境目だった。それが分かった。

引き戻されるような感覚があって、目が覚めた。
白い天井。
本当に目が覚めたのだ、と理解した。
彼はずっと待ってくれていた。80週間も。目覚めるかどうか保証のない私を。ずっと。
「ごめんね、待たせてごめんね、待っていてくれてありがとう、ここにいてくれてありがとう」
ベッドに横たわったまま泣き出した私の手を、彼が握っている。幸福だと感じれば感じるほど、その思いはただひたすら涙になった。泣いて、泣いて、泣き疲れて、そのままもう一度まどろみの中へと落ちていく。今はまだ少しお休み、と誰かの声が聞こえた。

 

夢から醒めた時私は泣いていた。ぼろぼろと泣いていた。
幸福な夢を見た。